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3月22日

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アンドラーシュ・シフのピアノ・コンサートに行ってきました。ベートーヴェンのピアノソナタ32番を含むプログラムです。

この日、シフが弾いてくれた32番のアリエッタは、今までに実演で聴いた25回くらいの中でも最高、と言えるアリエッタでした。

この曲の数ある名演がもつ美しいニュアンスのほとんどを網羅しながら、細部だけでなく、全体の構成が醸し出す壮大な空間も描き出されていました。

そしてシフ独特の柔らかいタッチの幅広さから生まれるベーゼンドルファーの美しい音色が印象的でした。

前半の単調になりがちな変奏部の繰り返しでは、微妙にニュアンスを変えながら魅力的に旋律を奏で、

中盤のわずかな音の揺れしかない和音進行部も、そのわずかな差異の変動を生かした音楽の組み立てをしてくれ、

静寂のなかからトリルの断片が始まり、シーララの主題が甦ってくるクライマックスまで徐々にクレッシェンドする壮大な空間演出があり、

曲を半分くらい聴いたあたりから「これは最高の演奏に接しているのでは?」という予感を感じ、鳥肌がたちました。

その後もその期待を裏切ることなく抑揚のあるトリルの中で静かに曲が閉じられてゆき、素晴らしい演奏となりました。ブラボー!

演奏後に「ブラボー」を叫んだことのない私ですが、今回ばかりはスタンディングオベーションでブラボーと叫び・・・、いや心の中でそう叫び・・・ました。

 

しかも今回のコンサートの収益金はすべて東北の被災地に寄付されるそうです。いわばボランティアでの演奏なのに一切の手抜きなし。

いよいよファンになりました。アンコールでは、はじめゴールドベルク変奏曲のアリアをアンコールで弾いてくれてので、

もしかして全曲弾くつもり?と思いましたが、(シフのアンコール演奏が30分を超えるのはしばしばあることです)さすがにそれはありませんでしたが、

ベートーヴェンのピアノソナタ30番を全曲演奏してくれました。変奏曲つながりでプログラムをまとめたのでしょう。

 

率直に言ってプログラムの後半のディアベッリの33の変奏曲は相変わらず苦手な曲でしたが、シフの絶頂期かと思うような30・32番が聴けて

大満足のコンサートでした。

 

※補足:前回の絵日記に書いた内容の、オピッツの32番の演奏を聴いたときに私自身が32番に飽きつつあるので

この曲に対する感動が薄くなっているのではないのだろうかという憶測は、シフの素晴らしい演奏を聴いて霧散しました。

やはり、素晴らしい演奏で聴くピアノソナタ32番からは、今でも言葉では何とも言えない感動を受けるのを再確認できました。